2010/02/02

『菅原伝授手習鑑』「車引」その1


歌舞伎座にはほぼ毎月行ってはいるものの、更新が滞っておりました…。歌舞伎座も残すところあと3ヶ月。歌舞伎座立替え工事のため、今年の4月から3年後の2013年春まで、歌舞伎座閉鎖。…ホントに悲しいです。

とはいえ、その間、歌舞伎公演が行われないというわけではなく、日本各地での公演は今まで通りあるでしょうし、ウワサによると、東京都内では新橋演舞場や国立劇場が主な舞台になるという話なので、これからも歌舞伎を楽しむつもりです〜。これで終わりじゃないですよ〜。なんてエラソーなこと言ってるヒマがあったらサッサとブログ更新しろ、というわけで、先日見に行った歌舞伎座夜の部、「車引」について。

2010年1月 歌舞伎座 夜の部


『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』 「車引(くるまびき)」 


今年1月の演目の中で一番楽しみにしてたのが、コレ! そして、今月の演目の中で一番面白かったのが、コレ! 

とか言いつつ、自分という人間の変わり身の早さにあ然とするのですが、実は私、昔はこの『菅原伝授手習鑑』という演目が嫌いでした。

だって、「「勉強の神様」「受験の神様」で知られる天神様(てんじんさま)こと菅原道真(すがわらのみちざね)が、上司にイジメられて左遷させられるという平安時代に起こった事件を軸に、彼をめぐる人々の親子や忠義の情愛を描いた物語」って、そんなふうに説明されて、「キャ~~面白そう!!」って、思えますか? 私は思えませんでした…。

何しろ、受験の神様も、職場のイジメも、親子の情愛も、若者にとってはどれもリアルにうっとおしいネタじゃないですか(笑)? なので若かりし頃の私は、単純に「つまんなそう。しかもやたら長いし」と、『菅原伝授手習鑑』関連の演目は、見に行かなかったり、TV放映も見なかったり。つまり、「避けて」ました。

ところが…です。解説を前もって読んでそれを鵜呑みにしてしまうと、ホントに大きく間違える。それが、歌舞伎。

もちろん、「菅原道真が九州に左遷される」という平安時代に実際にあった事件を軸にしていることは、間違っていません。でももっとちゃんと、正確に言うならば、「菅原道真が九州に左遷される」という大枠さえ守っていれば、その中身は何だってOK、ということでもある。それが、歌舞伎。

というわけで、まずは、菅原道真が平安時代のヒトであるという事実を、軽~くシカト。道真の養女は日本髪(江戸時代からの髪型です)を結ってるし、道真の息子は寺子屋(江戸時代にできた庶民のための教育施設です)にかくまわれてるし、道真の部下の息子はイキナリ飴売り(江戸時代に流行した職業です)になってるし、道真の養女なんて親王(天皇の息子です)と逢い引きしてたり、と、やりたい放題。

いや、時代設定や人物設定をシカト、というだけならまだわかるんですが。さらにその上には、人倫の道さえも、シカト

たとえば、この『菅原伝授手習鑑』のなかでも一番有名な場面で、明治時代になって初めて天皇陛下が(庶民の娯楽であった)歌舞伎をご覧になった(=これを「天覧歌舞伎」と言います)時にも演目として選ばれたという、「寺子屋」という場面、これなんて、道真の部下の息子のひとりが、道真の息子の命を救うために自分の実の子の首を切って差し出す、なんていう「え?」な話で、しかもそれを「涙なしには語れない感動ストーリー」として描くことに成功している、というありえなさ。

それが、歌舞伎。

っていうか、いいのか? それで? 歌舞伎よ? と、語りかけずにはおれない、歌舞伎の代表的演目『菅原伝授手習鑑』。については、長くなってしまったので、次回に続きます♪ (「車引」について全然語れていない…)