2009/05/19

『恋湊博多諷』通称「毛剃」


2009年5月 歌舞伎座 夜の部


■ 『恋湊博多諷(こいみなとはかたのひとふし)』 通称「毛剃(けぞり)

何しろ、タイトルが「毛ぞり」って(笑)。もし現代にこんなタイトルのお芝居があったら、私、絶対に見に行かないでしょうね。って、いや、ある意味「どんなのそれ?」的な興味で、あえて行くかも。っていうか、「え? あえて毛ぞりなの? 脱毛じゃなくて?」的なストイックさに惹かれて、率先して見に行くような気もしてきました。一緒に行ったアーティストの真珠子ちゃんもブログで、「どこの毛を剃ってたか、最後までわからなかったです」って書いてました(笑)(→こちら)。

っていうか、この作品、そんな毛な話じゃないんですけども(笑)。それに、「毛剃(けぞり)」っていうのはこのお芝居の通称でして、正式なタイトルは、『恋湊博多諷(こいみなと はかたの ひとふし)』。さらにもともとは、人形浄瑠璃がもとになっていて、近松門左衛門の『博多小女郎浪枕(はかた こじょろう なみまくら)』がオリジナルです。


この「毛剃(けぞり)」というのは、主人公の名前なんです。で、筋書き(パンフレット)を開いてみると、「頭の毛剃九右衛門(団十郎)が現れて~~」と書いてあり、「あたまの けぞり くえもん? またスゴい説明的な名前だな」と思ってたら、「頭」は「あたま」じゃなくて「かしら」、つまり海賊のリーダーって意味でした(笑)。

って、そんな毛の話じゃないんですよ! この作品は! えーと、私が面白かったのは、団十郎(海老蔵のお父さん)が演じる海賊のリーダー毛剃九右衛門が、恋敵である宗七(演じるのは坂田藤十郎)を海に投げ込んだ(つまり殺した)後、船の舳先につっ立ちます。で、何するかと思ったら、おもむろに両手をバッと上げ(=バンザイ!をし)、その手の平をピラッと裏返してから、ゆっくり両手を腰にあて(=体育の休めポーズをし)、グワーーッとあたりをニラむ。と、ここで、拍手喝采!!! え? 何何何? あわてて筋書き(パンフレット)を見たら、これこそが明治時代の大名優・九代目市川団十郎が創始したという、名高き「汐見(しおみ)の見得(みえ)」だったのでしたー。コレ、明治時代においてはイケてたのかな(笑)。あまりに大味な動作に、思わず笑ってしまったのは私だけでしょうか? しかし、この大らかさ、馬鹿馬鹿しさ(とあえて言いますけど)、いいなぁ〜。なごみます。この「汐見の見得」、私も今度マンションの4階のベランダからやってみよう。


で、その後、菊之助が演じる美しすぎる小女郎(職業も女郎)が登場し、さらに、海に投げ込まれて死んだはずの宗七が実は生きていた、と判明(ありがち)。そして、美しすぎる小女郎をめぐって対決する、男二人!!! …のはずだったのですが、結局、毛剃氏が宗七に「ワシらの海賊メンバーになれ」とスカウト、小女郎も「それがいいわ、そうなさいな」と後押し、「それじゃあ…」ってわけで、宗七は晴れて毛剃氏の海賊メンバーとなってめでたしめでたし! 終わり! 

…え、そんなんで、いいのか? 何がいいたいのかサッパリわからないこの作品(海賊メンバーになることを勧める作品とも言える)、このメチャクチャさ加減にヤラれました。何しろこの「頭の毛剃九右衛門」の大味で大雑把なカンジが、団十郎(海老蔵のお父さん)にピッタリ!で、かなり面白かったです。ちなみに、帰宅してから何となく、腕の毛を剃りました(サブリミナル効果)。