2009/05/25

『神田ばやし』


2009年5月 歌舞伎座 夜の部


『神田ばやし』


今回は、昭和27年初演の比較的新しいお芝居、『神田ばやし』(作・宇野信夫)。
しょっぱなから告白してしまいますが。実は、私、この「比較的新しい時代につくられた歌舞伎のお芝居」というのが、ちょっぴり苦手でした…。だって、江戸時代につくられた作品に比べると、「驚き」や「謎」や「カオス」が足りないんですもの。私は歌舞伎に、「驚き」や「謎」や「カオス」を求めているので、現代人的な論理で描かれているものは、理に落ちすぎてしまって、もの足りなかったりして…。なので、この作品も実はそれほど期待していませんでした。


ところが。なんか、ヘンなんですよ! この話。っていうか、なんかヘンなんですよ、登場人物が。というか、主人公が。というか、海老蔵がヘン!!!!! 睨みをきかせたら日本一、天下の色男でありモテ男である海老蔵が、始終ニヤニヤしてボーッとしてシドロモドロしてモジモジしっぱなし。で、やっと口開いたよ!と思ったら、ネコちゃん(ぬいぐるみのあやつり人形)に話しかけてるだけ。あとは、酒飲んでニヤニヤしたり、自分の浴衣を洗ってくれてる片思い中のおみっちゃん(梅枝)をソッと戸の隙間から覗き見して、「キャ~~ッ!!(ボクの浴衣洗ってくれてる~~っ!)」と、コーフン状態

「え? これって、キモヲタ?」(って、キモヲタという用語について、私、全く詳しくないので、使用法が間違ってたらごめんなさい)



『神田ばやし』のあらすじ。モジモジ&オドオドして周囲から「アホ」だと思われていた留吉(海老蔵)。ある日、同じ長屋に住むおらく婆さん(市蔵)のお金が無くなり、大騒動に。そこに居合わせた留吉(海老蔵)、あまりのシドロモドロ&モジモジっぷりがあやしすぎて犯人と見なされ、金を返せと要求されてしまう。どうなる留吉(海老蔵)?! このままでいいのか留吉(海老蔵)?!

…っていうストーリーですが、結局、オチはあるようなないような、微妙なカンジでして。いや、一応はあるんだけど、でも、「歌舞伎的には、アレをオチとは言わないでしょう」というくらいの幽(かす)かなオチ。いや、近代劇としてはあれで良いのだと思うのですが、歌舞伎としては、つまり、ぶっちゃけて言えば、上品すぎる。知的すぎるんです。江戸時代だったら、あんな品の良いオチ、許されません。もっと泥くさく、ガツン!といかなきゃ!!

というわけで、もっと「ガツン!」とパンチの効いた江戸歌舞伎的オチを、考えてみましたよ! 以下! (註:以下、完全な妄想です)


長屋中の住人にアホだと思われ、万引きの濡れ衣を着せられた留吉海老蔵。しかし実ハ、留吉海老蔵は、お家断絶の憂き目にあった黒田家の御曹司だった!! そしてお金が盗まれたと大騒ぎしたおらく婆さんは、実ハ、黒田家を乗っ取ろうとしていた市蔵之介の、女装&自作自演だった!! そして、留吉海老蔵の浴衣を洗ってくれていた大家の娘おみっちゃん、ふと、キモノの懐から落ちたのは、黒田家の重宝「千鳥の香炉」! そう、実ハ、おみっちゃんは、海老留吉のいいなづけ・お光姫だったのだ!! 

正体を現したおらく婆さん改メ、市蔵之介! 斬りかかる留吉海老蔵! 黒田家の重宝「千鳥の香炉」を高く掲げる、お光姫!

おみっちゃん 改メ お光姫 「いざ!」
留吉海老蔵  「いかで許してなるものか!」
おらく婆さん 改メ 市蔵之介 「ナニをこしゃくな!」

バタバタ、バタバタ、バッタリ(引っ張りの見得)。
チョン、チョン、チョン、チョン、チョン、チョン……(見得のまま幕引き)。



…って、文章で読むと相当つまんなそうですけど、舞台にのせると結構イケるんじゃないかなと(ダメ?)。