2009/05/22
『夕立』
2009年5月 歌舞伎座 夜の部
■ 清元 舞踊 『小猿七之助・御守殿お滝 夕立(ゆうだち)』
タイトルからイキナリ、「小猿七之助 御守殿お滝」と、人の名前らしきものが挙がってますが。たぶん、タイトルを見た人の97%はこう思ったに違いありません。
「誰?」
す、すみません、当時は誰もが知っていた名前だったんです…(なぜか私が謝る)。
というわけで、一人ずつ説明しますと、「小猿 七之助(こざる しちのすけ)」は、巾着(きんちゃく)切りの男。巾着切りとは、スリのこと。つまり「小猿 七之助」は、育ちのよくない小悪党(演じるのは、菊五郎)。
一方、「御守殿 滝川(ごしゅでん たきがわ)」は、大名の奥づとめの女。「御守殿」というのは、大名家にお嫁にいった徳川将軍家の娘のことで、それが転じて、その徳川将軍家の娘につかえる奥女中も「御守殿」と呼ばれていました。つまり「御守殿 滝川」は、気位の高いエリート女(演じるのは、時蔵)。
そんな身分違いの男と女がどうしたのか、って? そりゃあ、身分違いといえば、「恋」、に決まってるじゃないですか? 身分違い・育ち違い・境遇違い、なんでもよいけれど、バックグラウンドが違えば違うほど好奇心は増し、ロマンティックを投影する対象となる…って、そんなこと、この世の基本、この世の常識、この世の理(ことわり)ですよ(たぶん)。
というわけで、下世話な話で失礼しますが、御守殿滝川は小猿七之助に、道端で(!)、イキナリ「手ごめ」にされてしまうのでした。
その後の滝川ときたら、ポーッと上気した表情で小屋(?)から出てくるし、小猿七之助も手ぬぐいで首まわりの汗を拭きながら出てきて、滝川の首の汗もソッとふいてやる、みたいな調子で、「その後」の様子をジットリしっとり濃厚表現。気のせいか、周囲のおばさま方の扇子をあおぐスピードが上がっていたような…。
そんなワイルドでセクシーな小猿七之助に、メロメロになってしまった御守殿滝川。挙句のはてには、「女房にしておくれ〜」みたいなことを口走る始末。だ、大丈夫か? っていうか、止めたほうがいいって! ゼッタイ後悔するって! なんてことを言えば言うほど執着するに決まってるからあえて言いませんけど(観客席からだけど)。
しかし、エリート女もずいぶん馬鹿にされたもんですよね。なんかこう、男に免疫がないっていうか、ダメ男とかワル男とかに弱いとか、そういうステロタイプな描き方されちゃって。こういうのを見て、なんとなく溜飲を下げたような気がする男がいるかと思うと、なんかナットクいかないわ…と、別に自分はエリート女でもないのにムッとしてみたりする(笑)。
そんな私のフクザツな思いをよそに、舞台の二人はベタベタ三昧。で、二人でベッタリくっついたまま花道へ。そして、
「ドレ、道行と出かけようか」
という粋っぽい言葉を残して、ベタベタと去る二人。
以上、清元の名曲『夕立』にのって、踊りながらくり広げられるのでした。楽しい。