2009/05/26
歌舞伎十八番の内『暫』
2009年5月 歌舞伎座 昼の部
■ 歌舞伎十八番の内『暫(しばらく)』 大薩摩連中
いつの世でも人気があるのは、悪いヤツらをやっつけてくれる正義の味方、スーパーヒーロー。そう、『暫(しばらく)』の主人公、海老蔵ふんする鎌倉権五郎景政も、まさにそんなスーパーヒーローなのです! ……なんていう説明は、なんだか、もう、聞き飽きました……。そんなありふれた図式についていくら説明されても、「ふーん。で?」と思ってしまうのは、私だけでしょうか?
この歌舞伎十八番のひとつである『暫(しばらく)』に、面白さを見出すとしたら。それは、「ヒーロー」VS「悪いヤツら」というよくある図式にのっとりつつも、内実は、「そのなかで個々人にどれほどまでのヘンが許されるのか?」という実験の場になっちゃってるところ。です。(断言)
だって、いくら正義の味方でスーパーヒーローっていう設定だからって、暫のあの格好はないと思うんですよね。あまたある歌舞伎狂言のなかでも、群を抜く「ヘンさ」です(どれだけヘンかは、こちらの成田屋HPをご覧ください)。
だって海老蔵のあの美しい顔に、わざわざ赤い線を何本も書きまくって(「隈(くま)」と言いますけど)、頭にはカニの足みたいなのをいっぱいつけて(「車鬢(くるまびん)と言いますけど)、着物の袖に物干し竿みたいな棒を入れて、超巨大な真四角な袖にしちゃって(「大素襖(すおう)」と言いますけど)、しかも、その巨大な袖に家紋(市川団十郎家の三枡紋)までつけて、目立ちたい欲求すごい。
一方の敵もヘンな人たちばかりで、一番の巨悪は「清原」という人物なのですが(今回は左團次が演じてます)、これは「公家悪(くげあく)」といって、公家つまり貴族階級の極悪人。この人の着ているキモノは、貴族の装束なんですけど、そのキモノの正面ど真ん中に唐突に、龍(トラ?)の大きな顔マークがついていて、まるでタカ&トシのタカ(ボケのほう)がいつも着ているライオンマークTシャツのような印象に…。
敵のなかでも一番ありえないのは、ハゲ頭の通称「鯰坊主(なまずぼうず)」。頭はハゲているのに、両頬からのびてる長いヒゲ(?)は、乙女もうらやむロングの三つ編みに。しかも、海老蔵に向かってニラみをきかせるとき、そのヒゲの三つ編みを両手で握ってポーズ! って、乙女的なんだか自虐的なんだか。よくわかりません。
というわけで、それぞれがそれぞれのヘンを競うなか、互いに「やっちまえー!」みたいな感じで、善玉と悪玉の闘いという図式を無理矢理にキープしつつ話は進むのですが…、なんか、どっちも、言うことは威勢がいいんですけど、何しろ、あんまり、「動かない」んですよ、彼ら。威勢のいい言葉が飛びかえば飛びかうほど、「動かない」様子が気になって気になって(笑)。戦う気、あるのかー?
なんて思ってるうちに、アッという間に、鎌倉権五郎景政(海老蔵)が勝ったことになり、
鎌倉権五郎景政 「弱虫めら!」
敵たち 「さらば!」
完。
ですよー。もー。たまらないですねー。この呆気なさ。この自分勝手さ。
もしこの作品にメッセージがあるとしたら(ないと思うけど)、
「善悪なんかどうでもいい、周囲の目を気にせず、我が道を行け!!」
ですね。と、現代的な意味を(ムリヤリ)読み取ってみました。